脳梗塞の再発予防

 脳梗塞も急性冠症候群と同様に原則、発症当日から再発予防(二次予防)を開始する。喫煙などの生活習慣の修正とともに危険因子対策(積極的降圧は発症1ヵ月以降)、さらに抗血小板薬や抗凝固薬などによる抗血栓療法を行い、必要に応じて外科治療や血管内治療を行う(図1)。本稿では抗血栓療法を中心に述べる。

図1

1.経口抗血小板薬

 現在、わが国で脳梗塞に使える主な抗血小板薬を表1に示す。

表1

 非心原性脳梗塞(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、その他の脳梗塞、潜因性脳梗塞:抗凝固薬の適応のない脳梗塞)では、再発予防のために抗血小板薬を発症直後より投与する。

 来院時に明らかな塞栓源心疾患がない軽症脳梗塞やTIA急性期(発症48時間以内)には、脳梗塞発症予防にアスピリン(160〜300mg/日)の投与を行う。その後、アスピリンは75〜150mgに減量し、継続投与する。

 さらに軽症脳梗塞または高リスクTIA(年齢、血圧、臨床症状、期間、糖尿病[ABCD2スコア]が4以上)の患者は、重度の頸動脈狭窄または心房細動がない場合、発症から24時間以内にアスピリンとクロピドグレルによるdual antiplatelet therapy(DAPT、抗血小板薬2剤併用療法)を3週間(以後はsingle antiplatelet therapy:SAPT、単剤抗血小板療法)すると、脳卒中リスクが7.8%から5.2%に低下する(ハザード比0.66 [95%CI、0.56-0.77])1)2)

2018年のBMJに掲載されたDAPTのメタ解析とガイドラインからは、TIAや軽症脳梗塞ではアスピリンとクロピドグレルの2剤を投与(DAPT)し、10〜21日の間に1剤に減量する(図21)2))。慢性期のDAPTは再発への効果は差がなく、頭蓋内出血が増加する。

図2

 長期の2剤併用が必要と考えられる場合は、シロスタゾールにアスピリンあるいはクロピドグレルを併用する(CSPS.com試験)3)。シロスタゾールが頭蓋内出血などの出血合併症が少なくて、日本人高齢者には最適であるが、心不全には禁忌、冠動脈疾患には慎重投与となっている。また頻脈や頭痛の副作用が問題となる。

 通常、慢性期には抗血小板薬はSAPTが原則であり、クロピドグレルを選択した場合、日本人では遺伝子多型が問題となる。2021年よりプラスグレルが脳梗塞の再発予防の選択肢の1つとなっている。チクロピジンを新規に開始することはない。

2.経口抗凝固薬

 心原性脳塞栓症には発症早期より直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC、表2)やワルファリンなどの抗凝固薬を投与する。非弁膜症性心房細動(NVAF:持続性あるいは発作性)合併例には、速効性のあるDOACを投与する。DOACが使えない場合にはワルファリン(INR1.6~2.6)を投与する4)。リウマチ性僧帽弁疾患や機械弁では、心房細動の有無にかかわらず長期のワルファリン治療(INR 2.0〜3.0)を行う4)

表2

 NVAFによる心原性脳塞栓症あるいはNVAFを合併した非心原性脳梗塞に対して、DOACの投与に関して欧州の「1、3、6、12 day rule」があったが、わが国の臨床の現場にはマッチしていなかった。今回、わが国のSAMURAI研究とRELAXED研究の結果から「1、2、3、4 day rule」が提案されている5)

 DOACは、禁忌(表3)、慎重投与(表4)、薬物相互作用(表5)をしっかり熟知して、減量基準(表6)を遵守する必要がある。4剤9パターンの選択が可能であり、減量を考慮する基準を考慮しなくてよい選択も必要と考えている。また手術・侵襲的処置時の対応、消化器内視鏡検査時の休薬などついても知っておく必要がある。さらに抗凝固薬の必要な心原性脳塞栓症ではてんかんの合併が多く、抗凝固薬と抗てんかん薬の相互作用(表7)にも注意する。

表3
表4
表5
表6
表7

3.外科的治療と血管内治療

 脳梗塞の原因として頚動脈病変が考えられた場合、狭窄率が50%以上の症候性頚動脈狭窄に対しては、頚動脈血栓内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)や頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)を考慮する4)。頭蓋内動脈狭窄(70〜99%)による脳梗塞に対しては強化された内科治療を優先し、ステント治療は奨められない4)

 症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞/狭窄による脳梗塞に対して、発症時期、年齢、mRS、定量的脳循環測定結果から適応を慎重の考慮した上で、周術期合併症が極めて少ない熟達した術者によるextracranial-intracranial(EC-IC) bypassを行うことは妥当である4)

4.Brain-Heart Team

 原因不明の脳梗塞すなわち潜因性脳梗塞が2割程度存在する。正確な病型診断を行うために補助検査を活用する必要がある。心臓の評価が非常に重要になり、循環器チームに経胸壁心エコー・経食道心エコー、ホルター心電図などを依存することになる。

 Ablationの普及・発展、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)やReveal LINQなどの植え込み型心電図記録計(ICM)の登場、さらにWATCHMANやAmplatzer PFOの認可などで脳卒中グループと循環器グループがチーム(brain-heart team)を組んで塞栓源の検索、心疾患の管理、脳卒中の予防や治療を行う時代になった。

最後に

 脳梗塞急性期より抗血小板薬や抗凝固薬を投与し、慢性期にも継続投与するが、抗血小板薬の5剤、決められた減量基準があるDOACの4剤9パターンとワルファリンを目の前の脳梗塞患者に最適な選択をするスキルを磨いて欲しい。薬剤の特性、減量基準、慎重投与、禁忌、薬物相互作用を念頭において選択する。

済生会熊本病院 脳卒中センター 特別顧問 橋本洋一郎

【著者略歴】

1981年鹿児島大学医学部卒、熊本大学第一内科、1984年国立循環器病研究センター、1987年熊本大学第一内科、1993年熊本市民病院脳神経内科。2022年済生会熊本病院脳卒中センター・熊本県健康福祉部・健康局 日本頭痛学会・日本頭痛協会・日本脳卒中学会・日本脳卒中協会・日本禁煙学会の理事、日本脳卒中医療ケア従事者連合監事、くまもと禁煙推進フォーラム理事長。熊本県保険医協会副会長(理事、勤務医部会長)。専門は脳神経内科(脳卒中、頭痛、禁煙)。

文献

  1. Hao Q, Tampi M, O’Donnell M, et al: Clopidogrel plus aspiron versus aspirin alone for acute minor ischaemic stroke or high risk transient ischaemic attack: systematic review and meta-analysis. BMJ 2018;363:k5108.doi:10.1136/bmj.k5108
  2. Prasad K, Sienueniuk R, Hao Q, et al: Dual antiplatelet therapy with aspirin and clopidogrel for high risk tramsient ischaemic attak and minor ischaemic stroke: a clinical practice guideline. BMJ 2018;363:j656:k5130.doi:10.1136/bmj.k5130
  3. Toyoda K, Uchiyama S, Yamaguchi T, et al: Dual antiplatelet therapy using cilostazol for secondary prevention in patients with high-risk ischaemic stroke in Japan: a multicentre, open-label randomised controled trial. Lancet Neurol 18: 539-548, 2019
  4. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画、東京.
  5. Kimura S, Toyoda K, Yoshimura S, et al: Practical “1-2-3-4-day”rule for starting direct oral anticoagulants after ischemic stroke with atrial fibrillation: combined hospital-based cohort study. Stroke 1540-1549, 2022

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