脳梗塞の急性期治療

はじめに

  欧米において脳卒中は「病気の中のシンデレラ」と呼ばれてきた。英語圏で「シンデレラ」とは「無視、冷遇されているもの」を意味する。脳卒中がこのように呼ばれてきた背景には、一般市民および医療従事者に「脳卒中になってしまったらどうしようもない」という諦念があった。  1990年代に欧州を中心にstroke unit(SU、脳卒中ユニット、脳卒中専門病棟)の有効性がメタアナリシスによって明らかにされ導入が開始された。1996年に米国において脳梗塞に対する遺伝子組み換え型組織プラスミノゲンアクチベータ(recombinant tissue plasminogen activator: rt-PA)静注療法が一般診療として始まり、2000年台に脳卒中センターの整備が進められた。2010年台には機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy:MT)の有効性が示され、行うべき治療となった。

1.脳梗塞の分類

 1990年にNINDS (National Institute of Neurological Disorders and Stroke)の脳血管疾患の分類第Ⅲ版では、①発症機序、②臨床カテゴリー(臨床病型)、③部位(灌流域)、により脳梗塞を診断するように提唱された(表1)1)

表1

 1993年に臨床試験を行う上で、診断基準を明確にしたTOAST分類が提唱され2)、潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke)が加わることになった(表2)。TOAST分類では高リスクと中リスクの塞栓源心疾患が示された。

表2

 2014年に新規経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)の臨床試験のために塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undermined sources:ESUS)の診断基準が発表された3)が、TOAST分類を基本としており、実際は潜因性脳梗塞の診断基準となっている。なおTOAST分類では潜因性脳梗塞が増えるため、2005年にSSS-TOAST分類(ラクナ梗塞は1.5〜2cm未満と定義)も提唱されている(高リスクと低リスクの塞栓源心疾患を提示)4)。  その他OCSP分類、Lausanne Stroke Registry、GENIC分類、ASCOD分類なども提唱されているが、TOAST分類が実用的である。

2.Code Strokeと8つのD

 脳梗塞急性期診療のポイントは、①CT・MRIの24時間稼働、②rt-PA静注療法(発症から4.5時間以内)、③大血管閉塞(large vessel occlusion:LVO)に対するMT(発症から6時間以内、条件が合えば24時間以内)などの血管内治療、④外科治療、⑤臨床病型や発症機序に応じた内科治療、⑥入院当日から二次予防開始、⑦早期離床・早期リハビリテーション、⑧感染対策、⑨栄養管理、⑩stroke unitである。  現在はrt-PA静注療法やMTによる治すための治療を行うために、図1のような流れで脳梗塞急性期治療を行う。この2つの治療を確実に行うために24時間365日(24H/7D)急性期脳卒中を受け入れる脳卒中センターを含めた救急医療体制の整備を行い、「8つのD」5)(表3)が迅速に行われる必要がある。rt-PA静注療法やMTの可能性のある急性脳卒中患者を特定し、病院前および病院内の搬送時間とともに診断・治療を短縮し、脳梗塞患者の予後を改善するシステムであるCode Stroke(コード・ストローク:脳卒中緊急対応)を発令して対応する。

図1
表3

3.rt-PA静注療法

 わが国では「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針第3版」に従って、発症後4.5時間以内にアルテプラーゼ0.6mg/kg(最大投与量60mg)の10%をボーラス投与、残りを1時間で投与する(time-based strategy)。

発症時刻不明のwake-up strokeなどではMRIの拡散強調画像の虚血性変化がFLAIR画像で明瞭でない場合にはrt-PA静注療法を考慮する(tissue-based strategy)。

4.機械的血栓回収療法(MT)

発症から6時間以内の脳梗塞では、①内頸動脈または中大脳動脈M1部急性閉塞、②発症前のmodified Rankin Scale(mRS)スコアが0または1、③頭部CTまたはMRI拡散強調画像でAlberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)が6点以上、④National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアが6以上、⑤年齢18歳以上、のすべてを満たす症例に対してrt-PA静注療法を含む内科的治療に追加してMTが勧められている。

 発症から6〜24時間の脳梗塞には神経徴候と画像診断に基づいてMTが行われる。「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版」に従って行う。  わが国で行われたRESCUE-JapanのLIMIT試験ではASPECTSが3〜5のLVO患者を対象として、内科治療のみよりも血管内治療において主要転帰が良かった(90日後のmRS 0〜3の割合は、血管内治療群で31.0%、内科治療群で12.7%)6)。ただし頭蓋内出血は増加した(58.0% vs 31.4%)。

5.他の急性期治療薬

 脳保護薬エダラボンを発症24時間以内の脳梗塞に投与する(腎機能障害例には投与しない)。脳浮腫で頭蓋内圧が亢進するような症例ではグリセオールを使用する(心負荷に注意)。アテローム血栓性脳梗塞では発症後48時間以内にアルガトロバン、発症5日以内のラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞ではオザグレルナトリウムを検討する。心原性脳塞栓症にはヘパリンが投与されるが、欧米のガイドラインでは推奨されていない。表4に病型別の急性期治療を示す。発症早期より経口の抗血小板薬や抗凝固薬を病型診断に応じて二次予防(再発予防)を開始する。

表4

最後に

 rt-PA静注療法とMTは「専門性」と「時間との戦い」の2つの面を両立させる必要があり、病院前救護や院内体制を含めた地域の脳卒中診療提供体制の再構築が必要となっている。熊本県では24時間365日rt-PA静注療法が行える一次脳卒中センター13施設、その中からMTが行える一次脳卒中センターのコア施設(米国の血栓回収脳卒中センターに相当)3施設(熊本大学病院、済生会熊本病院、熊本赤十字病院)が日本脳卒中学会から認定されている。

済生会熊本病院 脳卒中センター 特別顧問 橋本 洋一郎

【著者略歴】

1981年鹿児島大学医学部卒、熊本大学第一内科、1984年国立循環器病研究センター、1987年熊本大学第一内科、1993年熊本市民病院脳神経内科。2022年済生会熊本病院脳卒中センター・熊本県健康福祉部・健康局 日本頭痛学会・日本頭痛協会・日本脳卒中学会・日本脳卒中協会・日本禁煙学会の理事、日本脳卒中医療ケア従事者連合監事、くまもと禁煙推進フォーラム理事長。熊本県保険医協会副会長(理事、勤務医部会長)。専門は脳神経内科(脳卒中、頭痛、禁煙)。

文献

  1. Whisnant JP, Basford JR, Bernstein EF, et al: Special report from the National Institute of Neurological Disorders and Stroke. Classification of cerebrovascular diseases III. Stroke 21: 637-676, 1990
  2. Adams HP Jr, Bendixen BH, Kappelle LJ, et al: Classification of subtype of acute ischemic stroke. Definitions for use in a multicenter clinical trial. TOAST. Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment. Stroke 24: 35-41, 1993
  3. Hart RG, Diener HC, Coutts SB, et al: Embolic strokes of undetermined source: the case for a new clinical construct. Lancet Neurol 13: 429-438, 2014
  4. Ay H, Furie KL, Singhal A, et al: An evidence-based causative classification system for acute ischemic stroke. Ann Neurol 58: 688-697, 2005
  5. Jauch EC, Cucchiara B, Adeoye O, et al: Part 11: Adult stroke: 2010 American Heart Association guidelines for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care. Circulation 122[suppl]: S818-S828, 2010
  6. Yoshimura S, Sakai N, Yamagmi H, et al: Endovascular therapy for acute stroke with a large ischemic region. N Engl J Med 386: 1303-1313, 2022

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