21世紀の医師教育課程の変化の加速

 熊本大学病院 佐土原 道人

 世紀の世界的な医学教育の変化を背景に我が国の医学教育も変化が加速しました。2002年に欧米の内科系専門学会が「新世紀の医師のプロフェッショナリズム医師憲章」を提唱し、新ヒポクラテスの誓いとも呼ばれる医師の社会的責務が具体的に謳われています。この頃に医学教育を受けたミレニアル世代前後では、学び方や内容が大きく異なります。
 現在、全医学部の偏差値は以上で倍率は約4倍に達しています。医療に対する世間の厳しい目にも係わらず、その人気は衰えていません。多くの医学生は、いわゆる進学校出身で予備校や塾での特殊な受験対策を経て合格しています。入学後も過密なカリキュラムと実習が続きます。ゆとり世代にとっては大きなギャップだったと考えられます。以前は比較的余裕のある教養の時期にリベラルアーツと社会における医療を自ら学び、基礎・臨床で専門性を学び、卒後にやっと医療現場で実務を行いました。現在は早期体験実習で低学年から医療や地域に暴露されます。6年間の統合型カリキュラムで医学専門学校化とも言えます。授業も少人数でのグループ学習が一定割合導入されています。出席も必須で、授業や実習に参加しない学生はアンプロフェッショナルとされます。部活やバイトの時間を合わせると自由な時間がある学生はほぼいないでしょう。標準化されたモデル・コア・カリキュラムでミニマル・エッセンシャルな知識を学び、その活用する能力が問われ、各医局が専門とする課題の対策だけでは進級も難しくなりました。臨床実習の参加のために、共用試験というコンピュータで行う知識を問うテストとOSCEと呼ばれる実技試験が4年生から5年生の進級に課せられます。2023年度からは、医師法の改正でこれに合格した学生は、指導医による指導、監督の下、およその医療行為ができるようになります。スチューデント・ドクター制度です。医師免許取得のための医師国家試験の出題内容も、実習現場を反映したものが混じるようになりました。学生、大学とも予備校とタイアップした国家試験対策が当たり前になっています。2004年から卒後2年間の臨床研修制度、2018年から日本専門医機構による専門研修が開始されました。卒前から卒後へと一貫性・連続性のあるキャリア設計が進んでいます。
 ここまでして専門医になっても、医療のニーズの変化、働き方改革、AIやロボット支援手術などの技術革新で、先が予見できない不確実性の未来となっています。医師としての職業も患者の価値観や感情、意思決定支援などのヒューマン・インターフェースとして深く係わり、生き甲斐を感じられる豊かな人間性がなければ持続可能性が低くなるでしょう。これから誕生するデジタルネイティブであるZ世代の医師の活躍に期待します。


 

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