一過性脳虚血発作(TIA)

はじめに

 めまい、しびれ、脱力、歩行障害、発語障害、視覚障害、記憶障害、意識障害などが一過性に出現して来院した患者の診療はスキルが必要である。一過性神経症状の診療では、TIA、TMB、TNA、TGA、TEA、TFNE、ACVS、ABCD2、CHADS2、DOACといった横文字略語が飛び交う。一過性神経症状では、まず一過性脳虚血発作(transient ischemic attack: TIA)を念頭において診療しなければならないが、TIAと間違いやすい疾患も多い(TIA mimics)。一方でTIAを他の疾患と間違うこともある(TIA chameleon)。

1.定義

TIAは「血管疾患で起こる一過性黒内障や一過性の局所脳神経脱落症候が24時間以内に完全に消失するもの」と定義されていた1)

 2002年にAlbertsらがtissue-based definitionを提案した(表1)2)。2009年のAHA/ASA 科学的声明では、これまでの時間に基づいた定義ではなく、「TIAとは、急性脳梗塞を来さない脳、脊髄、網膜の局所虚血による一過性の神経機能障害である」ことを提案した3)

表1

 ICD-11(WHO、2018年:https://icd.who.int/en/)のTIAの定義は、「局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性エピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること。」となった。

 日本脳卒中学会は、この定義を取り入れ、TIAの定義を「局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性のエピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること。」(2019年10月)とし、脳卒中治療ガイドライン2021でもこの定義を示している4)

 Time-based definitionで存在し得た「梗塞のあるTIA」という概念はなくなり、MRI拡散強調画像で明らかな脳梗塞所見があれば脳梗塞の診断となる。TIAは脳血管障害(cerebrovascular diseases:CVD)の一型ではあるが、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3疾患からなる脳卒中(stroke)には含まれない。

2.症状と診断

一過性神経症状を呈した症例がred flag(TIA、致死的不整脈の存在など)であるかの判断が重要である。Red flagを示唆するポイントは、高齢、持続時間が長いことや繰り返すこと、陽性徴候(片頭痛やてんかん)より陰性徴候(TIA)、血管危険因子の存在、緩徐発症(片頭痛)より突然発症(TIA)、他の症状の随伴(意識障害は痙攣や失神に多い)などであろう。

多くのTIA患者は来院時にはすでに症候が消失しており、診断には注意深い病歴聴取が必要である。内頸動脈系TIAの症状は、一過性黒内障(amaurosis fugax、transient monocular blindness)、一側の運動麻痺、感覚障害、失語などの高次脳機能障害などであり、椎骨脳底動脈系TIAでは、運動失調、めまい、構音障害、複視、視力障害などである5)

National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)の脳血管障害の分類第Ⅲ版で示されている「TIAとはみなされない症状」を表2、「TIAに特有ではない症状」を表3、「TIAと鑑別すべき疾患」を表4(一部改変)に示す5。もちろん、他の症候を見落としていれば、結果としてTIAとみなされない症状でTIAも存在することはあり得る。表2に示した非局在性のtransient neurological attack(TNA)は、特に複合すると心血管疾患や認知症のリスクになると言われている。なお、失神では死亡リスクの高い心疾患を否定することを優先しなければならい。

表2
表3
表4

3.鑑別すべき特殊な疾患

1)TGA

一過性全健忘(transient global amnesia:TGA)は、発作中に同じ質問や言葉を繰り返すが、一晩寝ると症状は消失してしまい、TGAを知らなければTIAと診断してしまう。TGAにおいて高磁場MRI(3.0T)の拡散強調画像で海馬などに高信号域を認める症例が報告され、TGAの成因や病態について議論が再燃してきている。発作直後には異常がなく、発作開始後24〜72時間程度で高信号域が観察されることが多いという。発症機序としては、皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)説が有力となっている。

2)TEA

てんかんでも一過性の健忘を来すことがあり、一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia:TEA)と言われている。TEAでは同じ質問を繰り返さない、持続時間が30分程度と短い、再発が多いなど、TGAとは区別され得る。TEAでは加速的長期健忘や遠隔記憶障害を起こすことがあり、抗てんかん薬による早期の治療が必要である。

3)TFNE

 脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)に伴う一過性神経脱落症候をきたすものに一過性局所神経エピソード(transient focal neurological episodes:TFNE、amyloid spell)がある。短時間(10〜30分持続)ステレオタイプの身体半側の異常感覚、麻痺、発語障害、痙攣様発作、閃輝暗点をくり返す。CAA症例では、皮質脳表ヘモジデリン沈着症(cortical superficial siderosis:cSS)があるとTFNEを起こしやすい。一過性の神経症候を呈するのでTIAと診断されることがあるが、ベースにCAAがあり、脳葉脳内出血(皮質下出血)や円蓋部くも膜下出血(convexal subarachnoid hemorrhage:cSAH)を来していることがあり、抗血小板薬の投与は脳葉脳内出血のリスクとなる。cSAH、cSS、microbleedsなどの検出のためMRIが必須である。発症機序は局所のcSAHやcSSによって引き起こされるCSDが指摘されている。

4.リスクの層別化と入院の適応3)

 TIAは発症後3ヵ月以内に10〜20%が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内と言われている3)。TIAを疑う症例では、イベント発生後できる限り迅速に評価を行う。TIAと診断したら可及的速やかに治療を開始しなければならない3)4)

 脳梗塞発症のリスク評価にはABCDスコア、ABCD2スコア、ABCD3スコアABCD3-Ⅰスコアなどが有用である(表5)4)。それぞれのスコアの特性を活かした評価がされている。TIA発症48時間以内の脳梗塞発症リスク評価のために開発されたABCD2スコアを用いることが多い。TIA後2日以内に脳梗塞を起こすリスクは0~1点で0%、2〜3点で1.3%、4~5点で4.1%、6~7点で8.1%であり、さらに7日間、90日間で観察しても同様に、スコアが高いほど脳梗塞に進展する確率が高い3)

 ABCD2スコアには心房細動が入っていないのが欠点である。TIAの2〜3割は心疾患に伴う心原性塞栓性TIAである。

表5

5.補助検査

 発症24時間以内に脳神経画像、特に拡散強調画像を含むMRI、血管の評価、心電図などの検査を行う3)。また神経超音波検査、MRAやCTAによる血管系の評価、心電図(12誘導、ホルター心電図)や心エコー(経胸壁、経食道)などによる心臓の評価、PT、APTT、若年者ではProtein CやS、AT-Ⅲ活性、D-dimer、抗カルジオリピン抗体、ループス抗凝固因子、その他の特殊な検査などの血液検査の重要性が強調されている3)。迅速かつ段階的に検査を進め、速やかに鑑別診断、原因検索、脳梗塞と同じように発症機序(血栓性、塞栓性、血行力学性)と臨床病型分類(アテローム血栓性、心原性塞栓性、ラクナ性、その他)を行う。

6.治療

 TIAでは、T(Take) I(Immediate) A(Action)として対応が必要である。多くの治療がTIAと脳梗塞の両者に適応できるため両者の区別は重要ではなくなってきている(TIAと脳梗塞を合わせてacute cerebrovascular syndrome:ACVSと呼ぶ)6)

 TIAを繰り返す場合(crescendo TIA)には、内服の抗血栓薬とともにヘパリン、あるいはわが国のlocal drugであるアルガトロバンやオザグレルナトリウムを脳梗塞に準じて使用することがある。

 非心原性TIAにおけるアスピリンの実際の投与量は、発症から2〜4週間以内は160-300mg/日、それ以降は75-150mg/日が推奨される。アスピリンとシロスタゾールは即効性があり、TIA発症後48時間以内の脳梗塞予防には適している。クロピドグレルは最大効果発現に5日必要であり、300mgのローディングを行う(適応外使用可)。非心原性TIAの発症直後でハイリスク症例ではアスピリンとクロピドグレルの2剤の併用を行い、10~21日までに1剤にする。

 非弁膜症性心房細動による心原性塞栓性TIA(CHADS2スコアで最低2点になるため)では、速効性のある直性作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)が第一選択薬となる。TIAでは原則、発症当日から投与する。腎機能障害などで使えない場合にはワルファリン内服とともにヘパリンを1万単位/日の持続投与を行い、ワルファリンが治療域になった時点でヘパリンを中止する。

 TIAの原因や病態によっては、頚動脈血栓内膜剝離術(CEA)、バイパス術、頚動脈ステント留置術(CAS)、経皮的卵円孔閉鎖術、ablation、経皮的左心耳閉鎖術、心臓の手術なども検討する。

図 神経症候を呈した患者の鑑別

済生会熊本病院 脳卒中センター 特別顧問 橋本 洋一郎

【著者略歴】

1981年鹿児島大学医学部卒、熊本大学第一内科、1984年国立循環器病研究センター、1987年熊本大学第一内科、1993年熊本市民病院脳神経内科。2022年済生会熊本病院脳卒中センター・熊本県健康福祉部・健康局 日本頭痛学会・日本頭痛協会・日本脳卒中学会・日本脳卒中協会・日本禁煙学会の理事、日本脳卒中医療ケア従事者連合監事、くまもと禁煙推進フォーラム理事長。熊本県保険医協会副会長(理事、勤務医部会長)。専門は脳神経内科(脳卒中、頭痛、禁煙)。

文献

  1. Feinberg WM, Albers GW, Barnett HJM, et al: Guidelines for the management of transient ischemic attacks. From the Ad Hoc Committee on guidelines for the management of transient ischemic attacks of the Stroke Council of the American Heart Association. Stroke 25: 1320-1335, 1994
  2. Albers GW, Caplan LR, Easton JD, et al: Transient ischemic attack -proposal for a new definition. N Engl J Med 347: 1713-1716, 2002
  3. EastonJD, Saver JL, MD, Albers GW, et al:  Definition and evaluation of transient ischemic attack. A scientific statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association Stroke Council; Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia; Council on Cardiovascular Radiology and Intervention; Council on Cardiovascular Nursing; and the Interdisciplinary Council on Peripheral Vascular Disease: The American Academy of Neurology affirms the value of this statement as an educational tool for neurologists. Stroke 40:2276-2293, 2009 http://stroke.ahajournals.org/cgi/content/full/40/6/2276
  4. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画、東京.
  5. National Institute of Neurological Disorders and Stroke. Classification of cerebrovascular diseases Ⅲ. Stroke 21: 637-676., 1990. http://stroke.ahajournals.org/content/21/4/637.long
  6. Kernan WN, Ovbiagele B, Black HR, et al: Guidelines for prevention of stroke in patients with stroke or transient ischemic attack: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 45: 2160-2236, 2014

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