血液の悪性腫瘍


液癌(造血器悪性腫瘍)の治療は抗癌剤治療のみに頼る時代が長く続き、治療成績の改善はほとんど認められなかった。悪性腫瘍の分子機構が次々と明らかになり、2000年代にはそれらに対しての様々な分子標的治療薬が開発され、治療成績の向上が図られてきている。

 造血器悪性腫瘍の代表である白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫に関して、現在の治療と今後の方向性に関して簡単に記載する。白血病は大きく急性と慢性に分類され、それぞれに骨髄性とリンパ性がある。一番頻度が高い急性骨髄性白血病は日本では標準療法は40年近く進歩がなかった。2021年に分子標的薬のbcl-2阻害剤と脱メチル化剤の併用療法が保険適応となり、それまでの抗癌剤治療一辺倒の時代では治療適応とならなかったフレイルな高齢者に対しても積極的に治療が行えるようになった。また、若年者に対しては同種造血幹細胞移植に関しても進歩があり、これまでは少子化などでHLA一致ドナーを探すことが困難になってきていたが、HLA半合致移植が可能となってきたことから、ドナーが見つからず移植をあきらめる患者が減ってきている。

 悪性リンパ腫に関しては、B細胞系の腫瘍では2000年になって抗CD20抗体が導入されたことから、中等度悪性度以上で完治する症例が明らかに増加してきている。低悪性度に関しても、これまでは完治はしない疾患と思われてきたが、様々な分子標的薬を使用できるようになり治療反応性がいい場合は、健常人との生命予後がほとんど変わらないという時代になっている。また中等度悪性度以上では再発した場合に自家末梢血幹細胞移植でしか根治を目指せる治療法はなかったが、近年、CAR-T療法が保険適応となり、再発後も約半数の症例で治癒を期待できる状況になってきた。

 多発性骨髄腫に関しては、1900年代までは全くと言っていいほど有効な治療法はない不治の病であった。しかし2000年代になり次々と分子標的薬(プロテアソーム阻害剤、IMiD、抗体薬など)が出現して、またそれらを併用していくことにより、発症して1~2年の生命予後であった予後不良な疾患が、現在は10年の予後が期待できるまでとなってきた。さらにBiTEと呼ばれる新規の抗体薬やCAR-T療法なども使用可能となる状況で、将来的には治癒も期待できる疾患になるのではと考えられている。

 このように、これまで造血器悪性腫瘍と言えば難治性疾患と思われていた白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫が、2000年代になり分子標的薬の進歩によって予後がかなり改善されてきており、将来的には治癒も十分に期待できる疾患になっていくと考えられる。しかし、分子標的薬はかなりの高額な治療薬であり(例えばCAR-T療法は3300万円)、治療法の進歩と日本の医療費の高騰が将来的に折り合いをつけていけるのかは不安が残る現状である。

くまもと森都総合病院血液内科 鈴島

Loading