片頭痛

はじめに

 頭痛はありふれた症状であり、アイスクリームを食べたり、飲酒でも起こる。一方、初期の診断・治療が迅速かつ適切に行わなければ重篤な状態に陥る二次性頭痛が存在する。また片頭痛患者が鎮痛薬のみで治療され、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を併発し、頭痛が悪化・慢性化していることも多い。2000年台にトリプタンが登場し、2010年台に従来予防薬(バルプロ酸ナトリウム、インデラル、ベラパミル、アミトリプチリン)が保険診療で可能となった。2021年に片頭痛予防薬の抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin-gene related peptide:CGRP)抗体のガルカネズマブ、フレマネズマブ、抗CGRP受容体抗体のエレヌマブ、2022年に片頭痛頓挫薬のラスミジタンが登場し、片頭痛診療が大きく変貌している。

1.症状の頭痛から疾患の頭痛へ

 国際頭痛分類第3版では頭痛は、①一次性頭痛、②二次性頭痛、③有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛、と大きく3つに分類されている1)2)。坂井先生の執筆された本によると367種類の頭痛があるという3)。頭痛を患者は症状として捉えているが、医療者は疾患として捉える必要がある。片頭痛は脳の慢性疾患である。

 患者から「頭が痛い」、「頭痛がする」と言われたときに頭痛性疾患としての診断をする。すなわち頭痛診療は「頭痛という症状」を国際頭痛分類第3版1)2)の診断基準に従って「頭痛という疾患」(頭痛性疾患)に翻訳、すなわち診断する作業が大きなポイントである。

2.頭痛のABCDE分類

 臨床の現場では、頭痛大学 (http://homepage2.nifty.com/uoh/) を開設している間中信也先生による頭痛の「ABCDE分類」(表14))が頭痛診療の入り口としては大変便利である。

 『A(acute)頭痛』は、急性頭痛で赤・黄・青信号の頭痛で色々な頭痛がある。「増悪している頭痛」、「突発する激しい頭痛(雷鳴頭痛)」、あるいは「今まで経験したことのない頭痛、今まで最悪の頭痛(first or worst headache)」の場合は危険な頭痛の可能性が高い。3つの中で「増悪」が危険な頭痛の識別で最も有用で、3つとも陰性の場合は危険な頭痛は稀という5)6)

 『B(bind)頭痛』は、急性頭痛と慢性頭痛が混合(bind)した頭痛である。「普段頭痛もちだが、今回の頭痛はいつもの頭痛と違う」というタイプであり、A頭痛に準じて対応する。

 『C(chronic)頭痛』は、慢性反復性(chronic, episodic)の頭痛である。いわゆる「頭痛もちの頭痛」で、「いつもの頭痛ですか」と聞くとハイと答えが返ってくタイプで、その多くは片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などの一次性頭痛である。

 ほとんど連日(daily、1日4時間以上、月に15日以上)の頭痛が3ヵ月を超えて続くタイプの頭痛、すなわち慢性連日性頭痛(chronic daily headache:CDH7)8))で薬物乱用のないものを『D(daily)頭痛』、薬物を3ヵ月超えて過剰(excess)に服用しているものを「E(excess)頭痛」(薬剤の使用過多による頭痛)である。1回の頭痛発作が3時間以内の群発頭痛は外れる。

表1

3.頭痛の診断と紹介のフローチャート

 頭痛の診断と紹介のフローチャートを図1に示す。頭痛患者が初めて受診した場合、「危険な頭痛」が疑われるかどうかをトリアージ(red flag sign:赤旗徴候:SNNOOP10リストの活用)、すなわち「緊急を要する頭痛」と判断すれば、専門医へ即座に紹介する。

 診察時には「困りごとは何か!」を見極める。すなわち「困っていること」と「何を目的(緊急処置、検査、説明、治療)に受診したか」を上手く聞き出す。困りごとをはっきりさせ、その対応をしなければ頭痛患者の満足度は上がらない。

 一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別にDodickがSNOOPを提案している6)9)。これを発展させた「SNNOOP10 list10)が頭痛の診療ガイドライン2021に採用されている(図1)。

図1

4.頓挫薬(急性期治療薬)

 片頭痛に保険診療で使用可能な頓挫薬(急性期治療薬)を表2に示す。

表2

軽症〜中等症の片頭痛にはアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)を用いる。トリプタンは中等度〜重度の片頭痛に用いる。セロトニンには5-HT1から5-HT7の7種類の受容体があり、5-HT1B/1D受容体の作動薬がトリプタンとして開発された。5種類のトリプタンが現在使用可能で、経口薬、点鼻液、注射薬の剤型がある(表3図2)。

表3
図2

 トリプタン禁忌の脳血管障害や虚血性心疾患の既往のある患者にも使えるジタン系薬剤のラスミジタン(レイボー)が2022年に登場した(表3)。ラスミジタンは、選択的セロトニン1F(5-HT1F)受容体作動薬で、片頭痛の第一選択薬として使える。めまい、眠気等があらわれることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう十分注意する。血管収縮のリスクがないので、脳血管障害、一過性脳虚血発作、心筋梗塞、虚血性心疾患、異型狭心症、末梢血管障害等の既往がある場合、片麻痺性片頭痛や脳幹性前兆を伴う片頭痛などにも使用可能である。用法及び用量は通常、成人にはラスミジタンとして1回100mgを片頭痛発作時に経口投与する。ただし患者の状態に応じて1回50mg又は200mgを投与することができる。 頭痛の消失後に再発した場合は、24時間あたりの総投与量が200mgを超えない範囲で再投与できる。1錠内服後に改善しないからといって追加内服は不可である。併用注意は、アルコール、プロプラノロール(心拍数減少)、セロトニン作動薬(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬:セロトニン症候群)があり、インデラルやトリプタノールとの併用には注意する。

5.予防薬

 表4に保険診療で使用可能な片頭痛の予防薬を示す(図2)。

表4
図2

 アミトリプチリン、バルプロ酸ナトリウム、インデラル、ロメリジン、ベラパミルなどの従来予防薬をまず使用する。従来予防薬が効果不十分、認容性がないあるいは禁忌で使用できない片頭痛では、抗CGRP抗体のガルカネズマブ、フレマネズマブ、あるいは抗CGRP受容体抗体のエレヌマブを検討する(表5)。

表5

 片頭痛予防療法の目的は、①発作頻度の減少、重症度の軽減と持続時間の短縮、②急性期治療への反応性の改善、③生活機能の向上と生活への支障の軽減にある。急性期治療薬の乱用は薬剤の使用過多による頭痛(MOH)を誘発するので、急性期治療薬の過剰な使用がある場合も予防療法が必要である。

 従来は、頭痛患者には「頭痛で会社や学校を休むことはありませんか?」「頭痛で寝込むことはありませんか?」と尋ねていたが、新薬登場で「頭痛で仕事や勉強に支障を来すことはありませんか?」「痛み止めと予防薬を使う今までの治療で満足していますか?」と尋ねるようになった。

新薬3剤は、最適使用推進ガイドラインに従って使用する。①日本神経学会、日本頭痛学会、日本内科学会(総合内科専門医)、日本脳神経外科学会のいずれかが認定する専門医がいる、②効果が十分に得られない・認容性が低い・禁忌または副作用等の観点から安全性への強い懸念があるなどの理由によってプロプラノロール、バルプロ酸、ロメリジン等の片頭痛発作の発症抑制薬が使用または継続できない、③投与開始前3ヵ月以上の片頭痛日数が平均4日以上で適応がある。

頭痛日数が14日以下の反復性片頭痛(episodic migraine:EM)には注射直後から劇的に効く場合が多く、頭痛日数15日(片頭痛日数8日)以上の慢性片頭痛(chronic migraine:CM)では徐々に効果が表れることが多い。

ガルカネズマブは月1回、他の2剤は4週間ごとの投与である。冷蔵庫から出して30分経過しての皮下注となる。注射部位の痛みや反応(腫脹や痒み)が一番の問題であり、腫れたり、痒みが強い場合は軟膏を処方するので受診する。

3回皮下注して4回目(フレマネズマブ1回3本皮下注では3回目の24週後)に継続か中止の判断をする。高価であることが欠点であるが、3回皮下注して費用対効果を患者に判断して貰う。実際は劇的に効く患者が多く、継続することが多い。一部の患者では薬剤を変更することもある。

最後に

 図3に片頭痛の治療戦略を示す。生活習慣の修正と頭痛体操などの非薬物療法とともに、頓挫薬(急性期治療薬)と片頭痛予防薬をバランスよく用いる。頭痛診療では、国際頭痛分類第3版1)2)と頭痛の診療ガイドライン202111)が必携であるが、日本頭痛学会のホームページ(http://www.jhsnet.org)からpdfファイルとして無料でダウンロードできる。困ったら頭痛専門医へコンサルテーションする。

図3

 薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:medication-overuse headache:MOH)や女性や妊婦さんの片頭痛治療のポイントは今回は割愛した。

 新薬の登場で片頭痛診療が大きく変貌し、頭痛診療がやりやすくなってきている。保険適応のない薬剤を保険病名を付けての診療はしないように心掛けて欲しい(保険診療の徹底)。

 なお著者は漢方薬は頭痛に使うことは積極的に行っておらず、本原稿は漢方薬に関する記述はしなかった。

済生会熊本病院 脳卒中センター 特別顧問 橋本 洋一郎

【著者略歴】

1981年鹿児島大学医学部卒、熊本大学第一内科、1984年国立循環器病研究センター、1987年熊本大学第一内科、1993年熊本市民病院脳神経内科。2022年済生会熊本病院脳卒中センター・熊本県健康福祉部・健康局 日本頭痛学会・日本頭痛協会・日本脳卒中学会・日本脳卒中協会・日本禁煙学会の理事、日本脳卒中医療ケア従事者連合監事、くまもと禁煙推進フォーラム理事長。熊本県保険医協会副会長(理事、勤務医部会長)。専門は脳神経内科(脳卒中、頭痛、禁煙)。

文献

  1. Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS): The International Classification of Headache Disorders; 3rd edition. Cephalalgia 38: 1-211, 2018.
  2. 日本頭痛学会 国際頭痛分類委員会:国際頭痛分類第3版.医学書院、東京、2018、pp1-233.
  3. 坂井文彦:「片頭痛」からの卒業。講談社、東京、2018
  4. 間中信也:一次性頭痛診断のコツ —片頭痛を中心に—.治療93: 1537-1543, 2011
  5. Basugi M, et al: Usefulness of three simple questions to detect red flag headaches in outpatient setting.日本頭痛学会誌 33: 30-33, 2006
  6. 日本神経学会・日本頭痛学会監修・慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会:慢性頭痛の診療ガイドライン2013.医学書院、東京、2013、pp1-348
  7. Silberstein SD: Classification of daily and near-daily headaches: proposed revision to the HIS criteria. Headache 34: 1-7, 1994
  8. Silberstein SD, et al: Classification of daily and near-daily headaches: field trial of revised IHS criteria. Neurology 47:871-875, 1996
  9. Dodick DW: Clinical clues (primary/secondary, The 14th Migraine Trust International Symposium. London, 2002.
  10. Do TP, et al: Red and orange flags for secondary headaches  in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology 92: 134-144, 2019
  11. 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修、頭痛の診療ガイドライン作成委員会編集:頭痛の診療ガイドライン2021。医学書院、東京、2021、pp1-494

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