悩ましい宿日直許可の基準  

 くまもと森都総合病院 鈴島 仁

 2019年に施行された「働き方改革関連法」により、2024年から医師の労働時間の上限規制も否応なく始まることが決定し、各病院ともそこに向けての対応をこの2年間で行わなければならない。コロナ禍だからといって放っておくことはできない状況で、これまでにも各施設に於いてタスクシフティングや複数主治医制(実際には極わずかな特定の診療科でしかできていない)導入などを検討・実施されてきていることと思われる。

 この医師の働き方改革の中で、私が一番問題に感じていることが、”28時間連続勤務時間制限に係ってくる宿日直許可の基準”である。実は、2019年7月に厚労省が宿日直許可の基準という通達を出すまで私も詳しくは知らなかったのであるが、その内容は『医師が少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等(軽症の処置を含む)や、看護師等に対する指示、確認を行うこと」となっている。つまり、宿直とは「寝当直」が原則で、少数の時間外外来患者の診察までは許可ということになっている。翻って現在の中小規模の急性期病院を考えてみると、かなりの病院は二次救急を行うことで地域医療に貢献している。三次救急を行っているような大病院では医師は潤沢に在籍している施設が多く、この宿日直許可基準で問題になることは少ないと考えるが、ほとんどの二次救急病院は同日夜に寝当直と救急担当医を並列に配置する余裕がある施設は少ない。このような二次救急病院の中には、一部の夜間当直を大学病院などの勤務医に依頼している(バイト)ところもあり、そのような場合、そのバイト医は夜勤明けで大学に帰ったあとは、午後12時までしか勤務ができないのである。そうなると、場合によってはバイト医の確保も困難になる恐れがある。

 自前の医師で当直体制を組んでいる病院はさらに大変で、これまでの1人当直で宿日直許可がおりない場合は、夜勤を2人以上に増員しなければならない。私が研修医時代、大学の医局からの派遣で地方の小さな病院に勤務していた頃は、当直といえば1人で行い、夜間に救急患者が来ると対応して、次の日には普通に勤務するということが当たり前であり、疑問を感じたことはなかった。現在、勤務している病院でも二次救急を行ってはいるが、夜間に救急車を受けるのは1〜2台程度で、ゼロの日もある。このような状況下でも労基署は、1人当直体制では宿日直許可の基準に合致しないということで当直を認めてくれない。つまり、医師の夜勤を二倍に増員する必要があり、当然、医師一人あたりの当直回数は二倍に増える。更に近年、医師の高齢化で当直可能な医師が減ってきており、医師の当直年齢上限を55歳から60歳に引き上げても体制が追いつかない状況である。このような理由で二次救急病院が夜間救急を放棄すると、逆に三次救急病院にしわ寄せがいき、地域医療に大きく影響を及ぼすと思われる。なかなか解決策を見いだせない中、2024年は刻々と迫ってきている。

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