未来予想図
桜十字病院 安田 広樹
表題はDREAMS COME TRUE が歌っている歌の題名から拝借しました。その歌の中で、未来は予想通りに叶えられていくと歌われていますが、自分の人生を振り返ると、予想通りになったことはほぼ無いと思っています。
まず自分が医学部の学生だった頃、臓器別の医学講義に興味が持てず、何度も医学部を辞めようと考えていました。その当時、祖母からは「今辞めるのではなくて、一度医師になってから辞めなさい」とたしなめられました。それが今では医師の仕事は面白いと感じながら過ごせているのですから不思議な感じです。また30代前半の頃、職場での人間関係が上手くいかずに仕事を辞めてしまい、半年間働かなかった時期がありました。この時には「こんな身勝手なことをしたのだから、今後はまともな仕事は出来ないだろうな」と思っていましたが、幸いにもまだ第一線で働くことが出来ています。さらに、今の職場で働き始めた頃は、以前の職場との違いが大きすぎて、毎日のように辞めることを考えていました。ですが気が付くともう15年以上も同じ職場で働き続けています。
2014年に『口から食べるプロジェクト』を始めた時も、自分としては院内で少しでも興味を持つ人が増えたら良い、くらいの感じでしたが、今では熊本だけでなく、県外からも入院の紹介を受けるようになり、全国からも見学に来るような病院を代表する活動になっています。
熊本地震の時もそうです。最初の地震、前震のとき私は自院で当直をしていました。大きな揺れを感じて病院の1階ロビーに行くと、残業していたスタッフや寮に住んでいた人が駆けつけてくれました。その人たちと手分けして患者さんの安全確認を行ったり、設備の確認をしたりして過ごしました。自分が大きな地震に遭遇するなど考えてもいませんでしたが、当直明けで帰った次の日に、さらに強い本震が来るとは、本当に予想外でした。
振り返ってみると、あまり具体的な未来の予想を立てたことはなく、その時その時に自分の出来ることを、自分なりに一所懸命こなしていた感じです。自分の中に目指したい方向性が無いわけではありませんが、目標に向かって突き進んできた意識はなく、予想外の出来事がいくつも繋がった結果、今の自分があるように思います。でも、だからこそ人生の出来事を楽しめるのだと思います。もし自分の未来が予想出来て、将来の結果が分かるとしたら、全く味気のない人生になることでしょう。今、自分のやっている仕事や活動が、未来にどうなっているのか、全く分かりませんし、予想しようとも思いません。これからも、壁にぶつかったり、失敗したりしながら、少しずつ未来へ進んでいくのでしょう。過去の自分を振り返ると、今こうして未来を楽しみにしながら過ごすことが出来ているのは、本当に有難いことだと思います。
私は未来予想図ではなく未来ワカラズで、今この瞬間を味わいながら過ごしていこうと考えています。