禁煙支援のコツ ―5Aアプローチと行動変容ステージモデル―

はじめに

 タバコ煙にはタール、ニコチン、一酸化炭素の3大有害成分、実際には約5300種類の物質(約70種類の発がん性物質)が含まれています。

 喫煙には「身体的依存(ニコチン依存)」と「心理的依存(習慣)」の2つの依存があります。喫煙者の7割以上は「ニコチン依存症」であり、気合いだけではタバコはやめられません。なかなかやめられない、やめるとイライラするという喫煙者はニコチン依存症です。タバコでストレスが取れるという歪んだ認知があります。喫煙で取れるのはストレスではなくニコチン切れのイライラです。

 日常診療で5Aアプローチ行動変容ステージモデルを活用して禁煙支援を行ってください。

1.5Aアプローチ

 私たち医療従事者は、医師として愛情と熱意を持ちながら、医学的な知識を元に、「5Aアプローチ」(AskAdviceAssessAssistArrange) を用いて日常診療の中で禁煙支援を行います。禁煙が困難な場合、「5つのR」(RelevanceRisksRewardsRoadblocksRepetition)や基本的な質問、ニコチン依存、医学的な知識、治療の紹介などを実践し、禁煙のための動機付けを行っていきます。

 受診時、健診時、予防接種時、入院時、あるいは家族や子どもの受診時に、「タバコを吸いますか?」といつでも誰にでも尋ねる(Ask)ことから禁煙支援が始まります。理由を添えて「タバコをやめましょう」という医療従事者の一言(Advice)で、6ヵ月以上禁煙する人が2%増加します。

2.正しい禁煙法

 正しい禁煙方法は、①期日を決めて一気に禁煙を実行すること(完全禁煙)、②ある程度の禁断症状(ニコチン離脱症状)を覚悟すること、③吸いやすい「行動」をやめること、④吸いやすい「環境」を作らないこと、⑤吸いたくなったら「代わりの行動」をとることです。自力で出来ない場合は禁煙外来で禁煙補助薬を用います。

 ①禁煙をすると3〜7日間が辛い(イライラなどのニコチン離脱症状)が、それを過ぎると楽になる、②3週間禁煙できると一安心、③3(〜6)ヵ月間禁煙できると禁煙成功、④3(〜5)年間禁煙できたら卒煙です、三日坊主にならないようにして下さいと説明しています。

3.やってはいけないこと

 禁煙でやってはいけないこととして、①軽いタバコや過熱式タバコに変えること、②だんだんと減らそうとすること、③「1本くらいなら」と甘くみることです。喫煙者に「タバコは控えましょう」「本数を徐々に減らしていけばいいです」といった誤った禁煙支援は、かえって禁煙を困難にします。本数を減らせばよいのだという大儀名分を与えてしまい、禁煙しない言い訳となります。節煙をして次の喫煙までの間隔が長くなると、その都度離脱症状が出現し、次に吸ったときの快感がより大きく感じられ、喫煙する意欲も逆にそがれます。

4.軽いタバコ

 タバコ産業はライトやマイルドと銘打った「軽いタバコ」を販売することで、害が少ないと誤解させて販売を促進してきました。軽いタバコは、フィルターに開いているミシン目から空気が入ることで吸うタバコ煙を減らすことで喫煙量を減らすというものです。しかしこのミシン目を指で塞いだり、あるいは深く吸い込んだりすれば、軽いタバコにはならないのです。

 「本数を減らす」ことで喫煙の害を減らす努力をする喫煙者がいますが、喫煙本数が減っても脳卒中や心筋梗塞がそれほど減らないことが分かっています。1日1本の喫煙は1日20本の喫煙に比べ、冠動脈疾患では男性で46%、女性で31%、脳卒中については男性で41%、女性で34%の相対的リスクで(BMJ. 360; j3984, 2018)、5%にはなりません。実際に本数を減らした方はニコチン切れでイライラするので、ねもとまで吸うようになり、かえって有害物質の摂取量が増えるようです。

5.加熱式タバコ

 健康志向の高まりの中で登場したのが「煙が出ない」「有害物質が少ない」を銘打った「加熱式タバコ」(heated tobacco products:HTPs)です。タバコの葉を使わない「電子タバコ」(electronic cigarette:e-cigarette)とともに「新型タバコ」と言われています。なお海外ではニコチン入りの電子タバコの販売が行われていますが、わが国では薬機法上、ニコチンの入った電子タバコは販売できません。一般の人は加熱式タバコ、電子タバコ、新型タバコの区別ができず、また加熱式タバコをタバコと思っていない場合もあります。

 紙巻きタバコに比して加熱式タバコは、一酸化炭素の量は激減しますが、ニコチン量は変わりません。タールも大差ないというデータもあります。有害物質が 1/10になるというのはメーカーにとって都合の良い物質を示しており、元々、紙巻きタバコに多くの有害物質が異常に高い量で入っており、それが加熱式タバコで仮に大幅に減っても、日常生活であり得ないレベルの有害物質が含まれていることに変わりはありません。また有害物質が減ったからといってタバコ関連疾患リスクが低くくなることは意味しません。

 加熱式タバコによる受動喫煙の問題(気分不良、目や喉の痛みなど)、あるいは家族への受動喫煙が起こっていることを示すデータが発表されています(Int J Environ Res Public Health 2022, 19, 6275)。  加熱式タバコにすれば、冠動脈疾患や脳卒中の健康被害のリスクがほとんどなくなるとか、完全になくなると勘違いしてはいけません。心血管疾患に関して喫煙の安全なレベルというものは存在しませんので、リスクを有意に減らすためには喫煙本数を減らしたり軽いタバコや加熱式タバコに変えるのではなく、喫煙そのものをやめる、完全禁煙をすべきですと喫煙者に伝えることが必要です。さらに加熱式タバコではニコチン依存症は持続します。

6.実際の禁煙支援

1)行動変容ステージモデル

 実際の禁煙支援は行動変容ステージモデルを使って行うと便利です。禁煙のステージは、①無関心期(禁煙する気はない)、②関心期(6ヵ月以内に禁煙しようと考えているが1ヵ月以内ではない)、③準備期(1ヵ月以内に禁煙しようと考えている)、④実行期(禁煙して6ヵ月未満)、⑤維持期(禁煙して6ヵ月以上)があり、そのステージに応じて禁煙支援を行います。一律の禁煙支援では、特に無関心期の患者さんはトラブルを生じますので要注意です。

2)無関心期

 無関心期の喫煙者は、禁煙する気はなく、医療者の助言に対し抵抗を示し、問題行動に対する問題意識はありません。タバコは体に悪いと知っておきながら、禁煙すると太るし、ストレスが溜まるので、禁煙するほうが体に悪いといった「認知的不協和」があります。支援のポイントは、①無理矢理行動させない、②介入は短時間で行う、③情報提供、④受容する、⑤同意しない、ことです。今、タバコを止めるつもりはないことを受容しつつもタバコを吸ってもがんにならない人も多いといった間違った喫煙者の認識には同意しません。あなたはタバコを吸ってもがんにならないと思っているのですねと伝え、受容しながら間違った認知には同意しません。またタバコでストレスが解消できると思っているのは、実は依存の離脱症状が一時的に緩和されている状態でしかありません。

2)関心期

 関心期には問題行動を起こしていることに気づいている状態で「禁煙したいと思いながら、喫煙継続にも価値を認める」といった、相反する感情を持ち合わせている「感情の両価性」があります。喫煙者はタバコをやめたい気持ちとやめたくない気持ちが綱引きをしている状態ですので、「健康になりたい」という欲求を引き出すことが大切です。禁煙のメリットとデメリットの間に揺れ動く2つの感情を理解する必要があります。メリットで動機を強化します。

3)準備期

 準備期には禁煙の具体的な方法について喫煙者自身が調べ、問題を解決するための対策を身に付けさせます。自分で意志決定を行う「自己選択」の時期です。本やインターネットで調べたり、禁煙成功者に聞いたり、あるいは禁煙外来を受診します。具体的な禁煙方法を喫煙者自身が導き出すように支援します。自分で意志決定をします。

4)実行期

 実行期には禁煙を実行しますが、効果が目に見えて現れないために逆戻りしやすい時期です。逆戻りを防ぐために「賞賛」して、行動を強化します。行動強化は褒めることで、禁煙が出来ていることについて褒め続けます。

5)維持期

 維持期には実行期に実施した取り組みを確実なものにしていく時期(自立の時期)で、タバコを吸わないことが普通と感じるくらいになることです。「自立」を促します。万一逆戻りしても、いつでもサポートできる体制を伝え、会う度にフォローアップの声かけを忘れず行います。

最後に

 禁煙支援は禁煙外来のみで行うものではなく、通常の診療の中で是非、行って下さい。禁煙に関する資料は一般社団法人「くまもと禁煙推進フォーラム」のホームページを参照ください(https://square.umin.ac.jp/nosmoke/)。

済生会熊本病院 脳卒中センター 特別顧問 橋本 洋一郎

【著者略歴】

1981年鹿児島大学医学部卒、熊本大学第一内科、1984年国立循環器病研究センター、1987年熊本大学第一内科、1993年熊本市民病院脳神経内科。2022年済生会熊本病院脳卒中センター・熊本県健康福祉部・健康局 日本頭痛学会・日本頭痛協会・日本脳卒中学会・日本脳卒中協会・日本禁煙学会の理事、日本脳卒中医療ケア従事者連合監事、くまもと禁煙推進フォーラム理事長。熊本県保険医協会副会長(理事、勤務医部会長)。専門は脳神経内科(脳卒中、頭痛、禁煙)。

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