誤嚥性肺炎

はじめに

 誤嚥性肺炎は食物の誤嚥によって発症すると考えている人も少なくないと思われるが、現在のところ、誤嚥性肺炎の明確な定義はなく、日本呼吸器学会の「成人院内肺炎診療ガイドライン」において、嚥下機能障害を来しやすい病態が示されている程度である。しかし私は、「誤嚥性肺炎とは、直接の原因は唾液の不顕性誤嚥によるものだが、それに加えて様々な要因が関係して発症する複合的な病態である」と考えている。このため、誤嚥性肺炎の治療では口腔内常在菌をカバーすることを念頭におく必要がある。抗菌薬投与を行う前に、可能な限り痰培養を提出して、スルバクタム・アンピシリン1日4.5~9g、1日2~3回投与もしくはセフトリアキソン1日2g、1日1~2回投与で治療を開始する。ただし気管支拡張症などの肺疾患がある場合や、抗菌薬投与を繰り返されている場合は、緑膿菌やMRSAの存在も考慮する必要がある。

 細菌感染症の場合、細菌が存在するから感染する、ではなく、細菌が増殖する環境があるから感染が成立するという考え方が大切である。そのように考えると、誤嚥性肺炎の発症には、唾液誤嚥だけでなく、口腔環境悪化、咳嗽力低下、体力低下、覚醒レベル低下、活動量低下(広い意味での廃用症候群)、低栄養、下側肺障害など、多くの要因が関係していると考えられる(図1)。

図1

 このため、誤嚥性肺炎を抗菌薬によって治療するだけでなく、誤嚥性肺炎を発症した要因には何があるのかを考えることが重要である。それらの対策には、歯科衛生士などによる口腔ケア、離床、排痰や咳嗽力強化などの呼吸リハビリテーション、栄養状態の改善、覚醒レベルや筋緊張を落とすような薬剤の見直しなど、多くの視点が必要であり、コメディカルスタッフとの連携が重要となる(図2)。

図2

 現在でも、誤嚥性肺炎と診断されると、経口摂取が禁止され、不必要な経管栄養が開始されたり、終末期と判断されて治療が控えられたりする事例が少なくないが、適切な対応が行われれば、多くは回復する病態であることを理解して欲しい。

桜十字病院 安田 広樹

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