高齢者の手術適応は暦年齢ではなく生活年齢で決定する

朝日野総合病院 片渕 茂

 日本の現在の高齢者は10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能変化の低下が5~10年遅延しており、「若返り」現象がみられる。日本老年学会、日本老年医学会では新しい高齢者の定義が提言され、65~74歳を准高齢者(pre-old)、75~89歳を高齢者(old)、90歳以上を超高齢者(oldest-old・super-old)と区分している。超高齢者と定義される患者層でおいても手術が必要となる例があり、多くの病院で可能な場合は手術を行っている。しかし、適応決定において評価法がなく苦慮することも多い。
 私が外科医になった頃の術前カンファレンスでは、60歳代の胃癌の手術に関して推進派と反対派が激しい議論を交わしていた。そのような時代の中、82歳の十二指腸乳頭部癌の患者さまが入院してきた。手術は大きな侵襲のある膵頭十二指腸切除術である。手術は無理であろうとの空気の中で、患者さまが病棟の12階まで毎日、階段を登っているという情報が入ってきた。患者さまに何かスポーツをされているのですか?と尋ねると「以前はテニスをしていました。今はジムに通ってます」との返事であった。医師の中に12階まで階段を登れる者はいなかった。カンファレンスで手術適応は暦年齢でなく、生活年齢(肉体年齢)で決めるべきとの意見が通り、膵頭十二指腸切除が行われ、大きな合併症を起こすことなく無事に退院された。疾患や併存疾患などで手術リスクを判定する評価法はいくつかあるが、加齢に伴う機能低下を評価する指標がなかった。最近では、フレイル(虚弱、flarity)の評価法が有用との報告がある。
 超高齢者でも手術が可能と判定される健康長寿者はどのような生活をしているのであろうか? 国内の質の高い疫学研究(コホート研究および無作為化比較試験)の成果に基づく、信頼性と応用性が高いものから抜粋したガイドラインとして、東京都健康長寿医療センター研究所が健康長寿新ガイドラインを作成している。健康長寿を実現できるかどうかは「機能的健康度」に最も大きく左右され、この機能的健康に影響を与える二大要因は、中年期以降次第に増え、かつ重症化してくる疾病と、七五歳以降顕著になってくる心身機能の加齢変化(老衰)である。したがって、健康長寿を達成するには、中年期以降疾病の予防や管理をしっかり行うことはもちろん、高齢期における心身機能の加齢変化を抑制する生活習慣を身につけることが重要であると述べている。
健康長寿新ガイドライン~健康長寿のための一二か条~
①食生活 ②お口の健康 ③体力・身体活動 ④社会参加 ⑤こころ(心理) ⑥事故予防(含む家庭内) ⑦健康食品やサプリメント ⑧地域力 ⑨フレイル ⑩認知症 ⑪生活習慣病 ⑫介護・終末期を課題として挙げている。いずれも重要な課題ばかりであるが、このうち「食生活」、「体力・身体活動」、「社会参加」の三つは最も重要な基本項目で、筆者らは「健康長寿の三本柱」と呼んでいる。

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